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超高輝度・超高強度光を用いた先端的測定およびその手法の開発
当研究室では、X線自由電子レーザーを用いた最先端測定手法の開発および新奇物性研究を実施しています。X線自由電子レーザーでは超高輝度・超高強度の位相の揃った(コヒーレントな)光を利用した実験ができるため、ここでしかできない実験を展開しています。とくに、従来の可視光での測定を軟X線領域に拡張した共鳴光学効果を利用することで、元素選択的かつ巨大なシグナルを得ることができます。このページではコヒーレントな光の特性を利用した「共鳴磁気光学効果」と超高強度の特性を利用した「軟X線第二次高調波発生」を紹介します。
1. 共鳴磁気光学効果 [1]
これまで磁性材料からの反射光の偏光状態に、その物質の磁化の情報が現れる磁気光学カー効果(Magneto Optical Kerr Effect: MOKE)が伝統的な磁気プローブ手法として用いられてきました。具体的に、MOKEは、入射光の偏光の主軸が回転するカー回転角と、直線偏光の入射光が反射光では楕円偏光になる楕円率と言う物理量で特徴づけられます。従来のMOKEは実験室系において可視光域のレーザーを用いて測定されており、対象試料の平均した磁化情報を得ていました。当研究室では、この可視域のMOKEを軟X線域に拡張しました。使用エネルギーを対象元素の内殻共鳴吸収端に合わせることで、元素選択的な測定が可能になります。この共鳴磁気光学効果(Resonant MOKE: RMOKE)は、可視域に比べて非常に大きな磁気光学応答を持つことが特徴です。実際に、NiのM吸収端において、可視域のMOKEに比べて50倍の磁気光学応答が観測されました。
研究例1-1: 自由電子レーザーを用いた超高速スピンダイナミクス[2]
上記のRMOKEは、Photon-in & Photon-outの測定セットアップを取り、超高速領域の物性プローブ手法であるポンプ・プローブ法と相性が良く、元素選択的なスピンダイナミクス研究に展開できます。フェムト秒域(1フェムト秒=10-15秒)は、磁気秩序の根源であるスピン交換相互作用に対応スケールで、基礎的に非常に重要です。また超高速磁気デバイス開発に代表されるスピントロニクス分野においても重要視されています。当研究室では、これまで日本、イタリアの自由電子レーザーを用いたスピンダイナミクス研究を進めてきました。実際、イタリアの自由電子レーザーFERMIを用いて時間分解RMOKEによりGdFeCoのFeの超高速磁化反転現象の元素選択的な観測に成功しました。
2. 軟X線第二次高調波発生(SHG) [3]
第二次高調波発生(Second Harmonic Generation; SHG)は非線形光学効果の一種で高強度の入射光を試料に入射したときに、その周波数の二倍の光が発生する現象のことを指します。この現象は表面や界面など反転対称性の破れた系からのみ発生する特性を持っており、これまでに様々な光領域にて表面・界面の電子状態をプローブする手法として利用されてきました。当研究室ではこのSHG測定を軟X線領域に拡張し、世界に先駆けて軟X線SHGの観測を日本に存在する唯一のX線自由電子レーザーSACLAで反射配置にて成功しました[3]。また、使用エネルギーを内殻共鳴吸収端に一致させることで、対象元素からの増大した信号が得られることを明らかにし、現在様々な研究展開を実施しています。
研究例2-1: 異なる太陽光電池材料に対する埋もれた界面からの軟X線SHG測定[4]
SHGは表面・界面敏感性を有していることから、埋もれた界面の電子状態が重要視される研究領域と相性が良く、現在も国内外問わず様々なその分野の専門家と共同研究をしています。ここで示した例はその一例である太陽光電池材料の研究です。この実験では、異なる選択接触層を持つ太陽光電池材料を用意し、それぞれに対して軟X線SHG測定を実施し、選択接触層とSiO2層界面からのみの信号の検出に成功しました。また、価数の違いによって、軟X線SHGの発生の有無についても明らかにし、世界に先駆けた化学種選択的な測定が可能であることを実証しました。
研究例2-2: 軟X線磁化誘起SHG分光測定手法の開発[5]
上記の研究例は、実証された軟X線非線形光学現象を用いた物性研究への展開について示しましたが、当研究室では新奇軟X線非線形光学現象を追求した測定も実施しています。磁化誘起SHGとは、磁場印加下で試料に対して高強度光を入射したとき、通常見られる表面・界面(空間反転対称性の破れ)からのSHG光だけではなく、試料の磁化(時間反転対称性の破れ)に由来するSHG光(磁化誘起SHG光)も加えて発生する現象です。RMOKE測定では、表面やバルクの磁化情報を元素選択的に取得することに有効ですが、軟X線磁化誘起SHG分光測定では、界面の磁化情報を元素選択的に得られることから、磁化多層構造試料に対して有効な手段です。
参考文献
[1] Sh. Yamamoto et al., Phys. Rev. B 89, 064423 (2014).
[2] Sh. Yamamoto et al., Rev. Sci. Instrum. 86, 083901 (2015).
[3] Sh. Yamamoto et al., Phys. Rev. Lett. 120, 223902 (2018).
[4] M. Horio et al., Appl. Phys. Lett. 123, 031602 (2023).
[5] T. Sumi et al., Appl. Phys. Lett. 122, 171601 (2023).